<上記の図では、日本株BCGを接種している日本、イラク、タイのみ感染拡大が抑制されており、日本株BCG接種の有効性が示唆される。(GDP中程度の諸外国との比較)>
本記事では、4/9時点において、新型コロナ感染拡大とBCGワクチン接種の関係について検証を行っている。日本株(Tokyo 172 strain)、ロシア株、ブラジル株、デンマーク株などの各国の接種株の違いについても感染拡大に影響を及ぼしているかどうか比較検討を行った。
結果、以下の事実を示すことができた。
①日本株BCGワクチン接種国のタイ、韓国、イラク、日本では感染拡大が抑制
②ロシア株、デンマーク株等、日本株以外のBCGワクチン接種は新型コロナに効果が無い可能性がある
ただし、タイは3月の気温が高かったことが、韓国では3月の降水量が少なかったことが感染抑制の原因として作用した可能性もある。
なお、上記の推論においては感染拡大におけるGDPの影響、気温の影響、降水量の影響を排除した上での比較を行っている。
1. BCGワクチンとは何か
概要
結核に対しての抵抗力をつけることを企図して生成されたワクチンのことを指す。日本をはじめとした世界中の国々で、予防接種として主に乳幼児期に接種することが義務づけられている。(以下の薄い緑の国は現在も全員接種が義務)
(BCG接種国マップ)
http://www.bcgatlas.org/index.php
本来、新型コロナウイルスに対しての免疫をつけるためのワクチンではないため、その有効性については現時点では賛否両論ある。しかしながら、このワクチンの接種によって免疫力が高まった結果、肺がん、喘息、寄生虫などの結核以外の病気に対しても予防効果があった事例がいくつか研究として報告されている。
(肺がん予防効果についての研究)
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2751896
(喘息や寄生虫についての予防効果の研究)
https://medicalxpress.com/news/2016-12-tuberculosis-vaccine-diseases.html
このような背景から、BCGワクチンの接種が新型コロナにも有効ではないかとの仮説を支持する専門家も増えてきている。
BCGワクチンの種類の違いについて
BCGワクチンには、日本株(Tokyo 172 strain)、ロシア株、デンマーク株など、各国で異なる菌株が使用されている。
ワクチンのもととなる菌株は、一般に培養を繰り返すことでその性質が変化する。BCGは牛に感染する結核菌を起源としており、オリジナルに近いほど毒性が強く、予防接種としての効果が高いといわれている。
日本株(Tokyo 172 strain)の起源となった菌株は、志賀潔(赤痢菌の発見者として有名)が、BCGの開発者であるCamille博士から直接分与を受けて持ち帰ったものであり、ロシア株、ブラジル株と並んでオリジナルに近いとされる。
(BCG の歴史:過去の研究から何を学ぶべきか)
https://jata.or.jp/rit/rj/tenbo/48toida.pdf
日本での接種政策について
日本での接種政策については以下の通りである。日本においてはほとんどすべての方が少なくとも1回以上の接種を行っていることが分かる。
(厚生労働省HP)
2. 国別のBCG接種株と感染者数及び死亡率の関係
- 以下にて国別のBCG接種株と100万人当たり感染者、死亡率をまとめた
※ オレンジはBCG接種なし、水色は日本株BCG接種の国(感染者数:WHO公式HP)
https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019/situation-reports
(各国人口:UNFPA)
https://www.unfpa.org/sites/default/files/pub-pdf/UNFPA_PUB_2019_EN_State_of_World_Population.pdfDownload entire World Economic Outlook database, October 2019
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感染拡大している国ではBCG接種を行っていない国が多い
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日本株BCG接種国では人口当たり感染者数が少ない
- 上記の傾向について明確にすべく、BCG接種株別に以下にて平均値を計算した
(4/9時点)
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日本株接種国では100万人当たり感染者数は65人であり、死亡率ともに他国より低いことが観察される
- 一方で、BCGを接種していない国では感染者数、死亡率ともに高い
- また、ロシア株、ブラジル株、デンマーク株接種国の感染者は一定以上多く、感染拡大との関係性ははっきりしない
3. 感染者数に影響を及ぼすその他の要因について
- 感染拡大には、BCG接種以外にも様々な要素が影響している。BCG接種が有効であるというためには、これらの影響を排除した上で比較していく必要がある
- 本記事では代表的なものとして①GDPの水準、②気温の影響、③降水量の影響を挙げ、これらの影響を排除した比較を行った上で、BCG接種の有効性を検証していきたい
① 各国のGDPの水準
(GDPデータはIMFのHPより取得) -
2018年度の各国の一人当たりの名目GDPと感染者数の関係を示しており、GDPが高い国ほど感染者が多い傾向がみられる
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GDPが高い国ほど医療水準が高く、検査率が高いことによる見せかけの相関があること、GDPが高い国ほどグローバル企業等が多数存在しており、国内外の人の往来が多いこと等が考えられる
- 詳細は以下で検証しているので参照されたい
GDPが高いほど新型コロナは感染拡大する? - 八木電流のブログ
② 各国の気温の影響
(気候データは気象庁HPより取得、各国の各観測所の平均を用いている)
- 上記は2020年3月の平均気温と感染者数の関係を示したもの。気温が高いほど感染は抑制されていることがわかる
- 詳細は以下の記事で検証しているためこちらを参照されたい
春になれば新型コロナは収束する? 気温と感染拡大の関係 - 八木電流のブログ
③ 各国の降水量の影響
(気候データは気象庁HPより取得、各国の各観測所の平均を用いている)
- 上記は2020年3月の降水量と感染者数の関係を示したもの。降水量が多いほど感染は広がっている
- 詳細は以下の記事で検証しているためこちらを参照されたい
4. GDP水準の影響を排除してもBCG接種は有効か?
- 上記2.①で見た通り、GDPの水準が新型コロナ感染拡大に影響する
- このため、以下にて同水準のGDPのグループ分を行い、BCG接種の効果がみられるかどうか検証を行うこととした
- 次に、GDP高グループの国々の感染拡大の推移を示す。(10人/100万人突破後の拡大推移)
※ 太い破線の韓国/日本は日本株BCG接種国
※ 細い破線はBCG接種なし
- 上記を見ると、韓国(ピンクの太い破線)は、他国と比較すると感染拡大のペースが緩やか。日本株BCGの接種や、感染抑制政策が奏功した可能性が示唆
- 日本株以外の接種国(太線)と接種なし(細字)の比較では、違いがあるかどうかはっきりしない
- 日本(赤太点線)の感染拡大の推移は他国と著しく異なるためここでの検証は困難
- 次に、GDP中グループの国々の感染拡大の推移を示す。(10人/100万人突破後の拡大推移)
※ 太い破線のイラク/タイ/日本は日本株BCG接種国
※ 太い線のロシア/ドミニカ/トルコ/エクアドルはロシア株接種国
※ その他の細い線の国は日本株以外のBCG接種国
- 日本株BCG接種のイラク、タイ、日本では感染拡大のスピードが他国より明確に低い。つまり、日本株BCG接種が新型コロナの感染拡大抑制に効果がある可能性が高い
- 日本は本来GDP高のグループに分類されるが、イラク/タイとほとんど同じペースで感染拡大している
- これは、日本では他の先進国と比較して検査率が低く発展途上国に近いためと考えられる
- ロシア株接種国(破線でない太線)のロシア、ドミニカ、トルコ、エクアドルと他国との比較では感染拡大への影響は不明瞭。
- BCG株の中でも日本の次にオリジナルに近いとされるロシア株だが、特に効果があるとは結論できない
5. 気温の影響を排除してもBCG接種は有効か?
- 3.ではGDP水準でグループ分けし、それぞれのグループ内においても日本株BCG接種国の感染拡大が抑制されていることを示した
- 一方で、2.②で示した通り気温が高いほど感染拡大は抑制される効果がある
- ここでは、3.のGDPグループ内の3月の平均気温を比較し、日本株BCG接種国の平均気温が他国より高いかどうかみることで、真に日本株BCG接種が有効かどうか検証していきたい
- 赤マーカーで示した韓国、日本は感染拡大が抑制されているが、他国と比較して特段気温が高いわけではないことがわかる
- 赤マーカーで示したイラク、タイ、日本は、降水量が同程度の他国と比較しても感染拡大は抑制されている旨が観察される
- イラク同程度の平均気温の国々と比較しても感染拡大が抑制されており、日本株BCG接種の効果による可能性がある
- タイの気温はこのグループで最も高く、タイの感染拡大が抑制されている原因の一つは、気温が高いためである可能性が高い
6. 降水量の影響を排除してもBCG接種は有効か?
- 2.③で示した通り降水量が多いほど感染は拡大する
- 4.に続き、降水量についてもGDP水準ごとのグループにて同様の比較を行うこととする
- ここでは、3.のGDPグループ内の3月の降水量を比較し、日本株BCG接種国の降水量が他国より高いかどうかみることで、真に日本株BCG接種が有効かどうか検証していきたい
- GDP高のグループでは降水量と感染拡大との関係がよりはっきり出ている
- 韓国の降水量はこのグループで2番目に少なく、韓国の感染拡大が抑制されている原因の一つは、降水量が少ないためである可能性がある
- 赤マーカーで示したイラク、タイ、日本は、降水量が同程度の他国と比較しても感染拡大は抑制されている旨が観察される
- イラク、タイについては降水量が少なく、比較的感染抑制に有利な条件であることが窺えるが、同程度の降水量の他国と比較してもやはり感染レベルは低く抑えられている
7. 結論
- 以上見てきた通り、新型コロナウイルスの感染拡大には様々な要因が影響していると考えられる
- 日本株BCGワクチンの接種国である、タイ、韓国、イラク、日本においては、同等の条件の他国と比較しても新型コロナの感染拡大は抑制されていることが観察される
- ただし、タイでは、3月の気温は高く降水量は少ないという感染抑制に有利な条件がそろっていたことが分かった
- また、同様に韓国では、3月の降水量が特に少なく、感染抑制に有利であったことが分かった
- しかしながら、上記を鑑みても、タイ、韓国、イラク、日本では日本株BCG接種を行っていることが感染抑制に一定の影響を及ぼしている可能性は高いと考える
- さらなる研究が各国でなされているが、楽観視することなく、感染拡大防止に努めていきたい